☆  Lesson 5


 皆さん! クリスですわ。
 人間界の夕日がこんなに美しいものとは思いませんでしたわ! 魔界には2つの太陽があるんですけれど、これほど明るくはありませんの。2つ合わせて、人間界の曇りの日と同程度の明るさなのだそうですわ。
 今後は、出掛けるのなら、曇りの日を狙うのがベストですわね。
 けれど、どこまでも高く澄んだ青い空‥。落ちていくような‥吸い込まれそうな‥不思議な感覚に、わたくし、少々恐ろしくもありましたの。美しい分、なおさら‥。
 いつも霞んだように白い魔界の空とは異なる趣ですわね‥。ああ‥ あの方にも、お見せしたい‥。
 見守っていて下さいましね、フィレンツェラ様あああ〜〜〜〜!!
 つらいですけれど、仕事に戻らなくてはなりませんわ。 未知の人間界‥ か弱い私に耐えきれるでしょうか‥。いいえ、クリスは耐えてみせますわ、貴方様の為に‥!!
 それでは皆様、そろそろ参りますわ‥。
 妙な使い魔が、ちょろちょろしておりますけど、お気になさらないで下さいましね!
「ね! じゃないがな、姐さん! どうしたんでっか? うっとりしはって、何ぞ悪いものでも‥」
「食べてませんわよ!!」
「あ〜 良かった‥ 戻らはった! ときに姐さん、司会進行のこの仕事、一発わてに任せとくんなはれや! 絶対、お役にたちまっせ、損はさせまへん! ほんま、わて何でもやりまっせー!」
「じゃあ、坊ちゃんのお部屋の支度お願いしますわ‥」
「あっあっ、今のは言葉のあやですがな〜。今のわて、役に立つのはこの淀みなく軽やかなトークだけですのや! せめて、それくらいでもお役に立ちたいっていう、わての心意気認めてくだはれや〜!」
「なんだか、とっても胡散臭いですわ‥」
「そーいわんと〜〜。それで、きっちり仕事こなした暁には、なんとかご主人にお口添えを〜〜! わて、もう、種に戻るの飽き飽きなんですわ〜! 久々に吸ったシャバの空気〜!! なんとか、なんとか、よろしうたのんます!! な、な!」
「それが、目当てでしたのね‥」
「わてには一大事なんだすわ〜」
「ふう‥ わかりましたわ。でも私の邪魔しましたら、即刻、ロマノフに引き渡しますわよ!」
「はい、はい、まかせとくんなはれ〜〜! 姐さんなら、そうゆーてくれる思いましたんや!」
 ほな、皆はん、いきまっせ〜! 長々引き延ばしてもて、悪ぅおしたな!

     *

 休憩は終わりっちゅうことで、クリスはん、急に忙しそうに動き始めましたわ。
 せやけど、さっきのは何でしたんやろ? クリスはん、ほぼ別人でしたえ? ほんま、今も昔も乙女っちゅうやつは解りまへんわ。まぁ黙っとったら、確かに可憐なんでっけど‥。
「あ‥ 待ってぇな、クリスはん!!」
 あかんあかん‥ 今のは内緒でっせ。こんなん聞かれたら、即刻、強制送還ですわ。
 口軽いのんも気ぃつけなあきまへんなぁ‥。
 え〜 クリスはんは今、坊ちゃんと御自分の就寝場所を確保すべく、歩き回っとるんですわ。
 1階と階段周辺は、結構 空間も安定しとるんでっけど、ちょっと離れると怪しいもんですわ‥。ほんまに仮固定しとるんやろか? 空間が、かーなり揺らぎまくっとって、とてもこないな所で寝られまへんわ。
「ねえ使い魔、坊ちゃんのお部屋は、この辺りでいいですわよね?」
 なんや、あっさり決めはりましたな。レオンはんも、もう帰ってくる頃やし、急がなならんっちゅうことやろか?
 それより、わて、気になっとるんですけどな、坊ちゃんって、一体どないなお子なんですやろ? レオンはんの気に掛けよう、普通やありまへんやん? わて、貴族の坊で、可愛らしいってのが、今ひとつピンと来まへんのや‥。その点、うちのご主人は可愛らしいでっせ。目つき除いたらやけど‥。
「何ぶつぶつ言ってますのよ? とりあえず使い魔、上に家具一式浮いているはずですから、必要なもの取ってきてくれませんこと?」
「ええっ! わて、こないな体で亜空なんぞ入りましたら、戻ってこられまへんがな!」
「もう、役に立ちませんわね。いいですわ、おどきになって。直接ここに呼び出しますわ! えーと、まずは絨毯‥と。まぁ、あれが良いんじゃありませんこと? ねえ、使い魔?」
「どれでっか? わて今、遠視(とおみ)の術使えまへんのや」
 無茶言いますわ、クリスはん。力無いっちゅうのんは、そういう当たり前の術さえ使えんっちゅうことでしてな‥。天井見ても、今のわてには、どこまでも続く真っ暗闇しか見えまへんのや‥。
「ほんとーに、役立たずですのね‥?」
「仕方ありまへんやろ〜! いっぺん種に戻されてもうたんやから!」
 そないに しみじみ言われたら、わて傷つきますわ。
「でも、変な話しですわね? 普通なら種には、大量の魔力が封じられてるものですわよね? 種の使用と同時に、セットされてた魔法が動きだすんですもの。魔力を抜いてしまったら、種としての意味がないんじゃないですの?」
「わかってまへんなぁ、姐さん! そやからわては、そのへんの安もんの種とは違う言うてますやろ? わてが一定の力得るには、かなりの魔力が必要なんですわ。せやから、力ある大貴族の直系にのみ代々受け継がれてきたんですわ!」
「ただ単に、無駄にエネルギー使う種なんて、誰も欲しがらなかっただけじゃありませんの?」
「い、いやなこという姐さんや〜。まあ、あと、2〜3日待っとくんなはれ。日常の雑務くらいぱっぱっぱ〜ですわ。なんやこの屋敷、魔力に満ち溢れてますさかいなぁ‥」
「そうですの? 人間界に魔力が漏れないように作られてるからかしら? それはそうと、絨毯‥ ベット‥ 机‥ 椅子‥ そこと、ここと、そこに‥」
 クリスはんが指し示した場所に、どす!っと家具が落ちてきましたで‥。
「あ‥ 窓のある方がいいですわよね? そうですわ、個室は2階のほうがいいですわね。じゃあ、やっぱり床は2階に固定して、壁は‥適当でいいですわね‥ あ‥でも壁紙はこの淡い花柄のにして‥ あああ、カーテンはこのフリルのに決定ですわーー!」
 なんや、やたらと楽しそうですなぁ、クリスはん。
「それじゃあ、次元固定しますわよ。天井がぐるぐるしていたら、きっとあまり眠れませんわ!」
 おお‥ なんや重力ちゅうか、空気っちゅうか‥ 上手く言えへんのですけど、変わりましたで。
「出来ましたわ! なんて可愛らしいんですの!」
 わて、ちょっと驚きましたな。クリスはん、歌うように呪文を口ずさんだだけでっせ。
「姐さん、ほんま大したもんやわ‥。そないにスペルすらすら言えるお人 見たん久々ですわ‥」
「魔力ばかり有り余ってる、間抜けな貴族と一緒にしないでくださいます? 方術を使いこなしてこその"魔術"ですわ。応用のきかない力押しは美しくありませんもの」
「はっはっはー。きっつい姐さんや! でも、魔力のない、魔術なんてたかが知れてまっせ‥」
「わかってますわよ。両方の均衡を保ってこそ、スマートな魔術‥魔法になるんですわ」
「そうや、そうや、姐さん若いのんに、ええこと言いおる! 最近は、魔力もない、術も使えん、そないな輩が、口ばっかり達者でのさばっとる。わては、悲しい!」
「ご自分のこと言ってますの‥?」
 う”っ‥‥。
「魔力が強いからって、脳味噌のない連中がのさばっているよりましですわ! これからは、ココの時代ですの!」
 頭ねぇ‥?
「まあ、確かに、5〜6代前のご主人の頃とは、全然違いますもんなぁ。なんや魔界もずいぶん平和で、活気づいとるみたいやし‥」
「まあ、そうなんですの?」
「わては魔界の荒波 泳ぎ切ってきた種でっせ〜! なんでも聞いて下さいや! わての記憶が残っとるうちに!」
「あまり期待できそうにありませんわね‥」
「はっはっはー、幾つか大事なことさえ忘れなんだら、あとはどうにでもなりますさかいな〜」
「行き当たりばったりですのね? それはそうと、レオン遅いですわね〜。 あら? 何だかいい匂いしませんこと?」
「これはゴッターニの匂いでっせ! わて好物ですのんや!」
「種も、ものを食べるんですの?」
「堅いこと言いっこなしやで、姐さん!」
 匂いがわてらを誘っとります。これは確かめに行くしかありまへんなぁ‥。


      *


 予想どおり、匂いの源は1階。広々としたキッチンに、エプロン姿のレオンはんが居てはりましたで。
「レオン、坊っちゃんはどうしましたの?」
「はい〜 寝室にお運びしましたぁ」
「寝室? いつの間に作りましたの!?」
「フロアの横の個室ですよぉ。そこだけ人数分の部屋がありまして、クリスの荷物もそこですよ〜」
「そう言えば、フロアには天井ありましたものね‥」
「はい〜 人間界との接点になりますし、玄関付近のあの一角だけは、次元固定されてるみたいですぅ」
「そうですの? それじゃあ、わたくし、二階に移りますわ。たった今、坊ちゃんの寝室お作りしたんですけど、それなら私が入りますわ。こんなことなら、あのリボンいっぱいのベットにするべきでしたわ‥!」
 姐さん、もう十分ですがな‥。
「で‥ レオンは、何してますの? いい匂い‥」
「坊ちゃまが目を覚まされたら、食べていただこうと思って‥。もちろん皆さんの分もありますよ。ほら、お隣のおばあさまが色々持たせて下さって。先程のシメジも入れてみたんですよ! ゴッターニにしてみたんです、何入れても合いますから」
 え〜ゴッターニちゅうのは、魔界でよく作られる家庭料理でしてな、色んな食材を鍋に放り込んで煮込むだけっちゅう、アバウトな料理ですのんや。各家庭、味は様々、人間界で言ったらのシチューと味噌スープのあいのこ‥とも、ちょっとちゃいますなぁ‥。まあ、ええわ。とにかく豪快に何でもありな料理ですわ。せやせや、人間界で魔女が大釜でなんやか煮込んでるっちゅう図がありますやろ? あれですわ、あれ! 大量に作ったほうが、味がよう染んで旨いんですのや。レオンはんのは、普通の鍋でっけど‥。
「兄さん、このスープええ味しとるわ!」
 この深みのある風味‥。まだそないに煮込んでへんはずやのに、大したもんや。わての人生で3本の指に入る出来でっせ。まあ、今の姿で"指"ゆうのも妙ですけどな、物は根っこで掴んどるし‥。
「まあ、本当ですか? 秘伝のダシを使ってるんですよ。私、家でも食事係でしたので、一応こういったことだけは自信があるかな〜なんて‥」
「兄さんが、料理?」
「はい、あと、掃除と洗濯と草刈りと‥」
「兄さんそれ、雑用係言うんちゃうか?」
「私、他に何も出来ませんので仕方ないんですよ。それに、何かしている方が落ち着きますし〜」
「姐さん、このお人、暗〜い人生を明るく生きてきたお人でっしゃろ?」
「興味はありますけど、聞かない方がいいですわ。なんだか、お涙頂戴人生のような気がしますわ‥」
 思わず声のトーンまで下がってまいましたがな。
 レオンはん、のんびり笑ってはりますけど「死ンドレラ‥」の世界でっせ、きっと!
 知ってはりますか? 人間界にも似た話ありますけどな、アレ肝心な結論全部抜けとるやないですか。可愛いくて不幸な死ンドレラが、継母倒した後ですがな。裏で糸引いてた魔法使いのババアが王国乗っ取るまでのサクセスストーリー! その上、死ンドレラも王子も何も知らずに傀儡(くぐつ)のまま幸せに天寿をまっとう! ほんま、ええ話しや! いかに長期間、楽して甘い汁吸うか‥ その秘訣が凝縮されとる名作ですがな。
 おや? 何か聞こえまへんか?
 女子(おなご)はんの声でっせ。
「あのーー。ごめんくださーーい」
「お隣さんよ。レオン!」
 はいはい〜 エプロンで両手をふきふき玄関へ向かうレオンはん。なんか妙にしっくりはまってはりますなぁ。
「それにしても、姐さん、わてらなんでこないな隅っこから、覗き見してますのや?」
「人間界デビューは、もう少し情報集めてからに決めましたの」
「意外と慎重なんですな‥」
「ねえ、使い魔‥」
「なんだす。姐さん。出来れば、わてシェルシェル呼んでほしいんでっけど‥」
「贅沢ね。それより、あれ‥。ロマノフよね‥」
「はあっ? ご主人! 天井から顔出して、一体何を!!」
「あーのーバ〜カ〜男〜!! 何だって、足を引っ張ることばかり〜〜!! 使い魔‥っと、シェルシェル! すぐに、あの頭引っ込めてくるのよ!!」
「あら? レオンさん。あの方、ロマノフさん‥ でしたよね? 天井裏から覗いてらっしゃるの?」
 見つかってまいましたがな〜〜!
「きゃーー、お終いですわ〜〜」
 い‥いや、ちょお待ってや、姐さん? なんや様子違いますで。あの人間の女子(おなご)はん、そないに驚いてまへんで‥。
「もしかして、ロマノフさんって大工さんなんですか? あの格好なら鳶職さんか船長さんだと思ってたんです! あ‥ 船長さんって変ですよね。とっても綺麗な上着を着てらしたから、物語の主人公みたいって思ったんです。ごめんなさい。くす‥。 でも配線工事も御自分でなさるんですねぇ‥」
 なんだか勝手に解釈してはりますなあ。天井裏もなにも、直接 天井から顔出とるのに‥。まあ、家の中が薄暗いよってに、気ぃついてへんのやろけど‥。
「あ‥ はい。そーなんですぅ、ロマノフさんに任せておけば一安心でして‥。ねえ、ロマノフさん!」
 女子はんに言われて、レオンはんもやっと、ご主人に気付かはりましたわ。もっと驚くか思たんですけど、上手くフォローしはりましたなぁ。クリスはんが言うほど、トロくはないでっせ。‥いや、トロいよってに、上手くいったんですかな? まあ、ええですわ。
 レオンはんはともかく、こっちの女子はんは間違いなくトロいようですなぁ。なんや、逆さ向いたご主人に、丁寧に頭下げてはりますわ‥。
 っとぉ! ご主人ーー!?
 お‥ 落ちてもうたで。ご主人‥。
 頭から豪快に‥。
「大変‥!」
 小さく叫んだんは、女子はんですわ。
 ご主人、信じられへんくらい頑丈ですさかい、心配はしてまへんのやけど、なんや動きまへんで‥。頭打ったからやろか‥? ああ‥ 救いに飛び出すことも出来へん、こないな、わてを許して下さいなぁ‥ ご主人。
 レオンはんが慌てて揺さぶっとるんですけど、ご主人、反応ありまへんなぁ。
「大丈夫ですか!? あの、私、救急車呼んできます!」
 ご主人の顔を間近に覗き込むと、すぐに踵を返す女子はん。
 とたん、何ですのんや!?
 しゅーーーー!!っと湯気吹いて、ご主人、壁を突き破って屋敷の奥に消えて行ってしまいましたわ‥。
「な‥な‥なんですのアレは‥」
「姐さん、しっかりしとくれやす〜!!」
 クリスはん、へなへな座り込んでまいましたがな‥。
 レオンはんと女子はんは‥。 はあ‥? なんや微笑んではりまっせ? 無事でよかったよかった‥って、それ、ちょお違うんちゃいまっか?
「どうしたの〜?」
 いや、どうしたもこうしたも‥って、何だす? 子供の声やがな?
「ああ、坊ちゃん、目が覚めておしまいに? 申し訳ありません‥」
 あれが、噂のエンド坊ちゃんですかいな? 確かに可愛らしい顔しはって‥。小悪魔の素質十分ですなぁ‥。
「はい、エンドくん、忘れ物!」
「ミチコおねーさんだー! あ、僕のクマぷー! あれ? ここ何処?」
 あの犬だか猫だかわからんぬいぐるみは、クマですかいな? それにしても、豪快に寝ぼけたお子でんな‥。
「ここはお屋敷ですよ坊ちゃん。今度から、お出かけするときは一言おっしゃって下さいね。私、心配で心配で‥」
「‥‥ごめんなさい」
 おお、坊ちゃんの今の しゅん‥。レオンはんにクリ−ンヒットですわ。お小さいのに、エライ技 持ってはりますなぁ‥。
「あ‥ レオンさん。それじゃあ、私、帰ります。また皆さんで遊びに来て下さいね。エンド君もね!」
「ああ何てことでしょう、お茶もお出ししませんで! よろしければ夕食でもご一緒に?」
「はい、でもまたの機会に‥。お忙しいところお邪魔しちゃって、済みません」
「とんでもない、こちらこそ‥‥」
 ふかぶか〜‥と2人で頭下げあってますで。
「あの挨拶、当分終わりそうにありまへんけど。何であないに何度も頭下げるんでっしゃろ?」
「そうゆう地域なのよ。あーー、やっぱり私。人間とは付き合えそうにありませんわ! それにしても、何考えてるのよレオンは! 部屋になんて入れたら、悪魔だってのがバレてしまいますのに!」
 あ、やっと終わりましたで姐さん。
「レーオーン!! まったく! 冷や冷やさせないで下さいまし!」
「はっはっは、まぁ何事ものうて良かったやないですか、姐さん。それより、うちのご主人 ‥‥ーー!! 」
「どうしたのよ?」
「いや、こちらの坊ちゃんどこかで‥」
「そうそう、エンド様〜。こちら、使い魔のシェルシェルさんですよぉ」
「あ、すんまへんすんまへん。ぼっちゃん。わてシェルシェル言います。よろしうたのんますわ!」
 なんでっしゃろ? こちらの坊ちゃん、よー見ると、見覚えある気ぃするんですわ‥。
「こんにちわー。うわあ。ぼくのクマぷーともお友達になってね!」
 はいはい。割りに大きなぬいぐるみですな。抱えとるのしんどそうでっせ? けど、なんや貴族らしからぬ素直そうなお子やおへんか。まあ、本性ちゅうのは、見た目じゃ判りまへんけどな‥。
 ーー のほぉ!?
 な、何や。こ‥この感じ‥? 
「なぁ坊ちゃん、そのぬいぐるみ、魔法の種が入って‥!?」
 ぉほぅわっ‥!
 ぅおお今、ごっつう悪寒走りましたわ。
 間違いないですわ。このぬいぐるみを通して、誰かがわてらのこと見とるんですわ。けど、この感じ‥それだけやありまへんのや。わて、絶対この感じ知っとるんですわ。どこかで‥どこかで‥
「ちょっと、どうしましたのシェルシェル‥?」
 思い出したーーーーー!!
 なんちゅうこっちゃ、そしたら、この坊ちゃん。
 早お、ご主人にお伝えせんと!!
「なに、じたばたしてますのよ??」
「そ、それが大変なんですがな!」
 はうっ!!
 あ‥ あかん‥ ぬいぐるみが‥ わてを見とる。
 ぬいぐるみ ちゃう‥ この向こうにおる お人は‥!
「わっ、わかりました! 決して申しません。はい! わわわ‥わてもちゃんと大人しゅうしとります。はい!」
「どうしたんです、シェルシェルさん〜」
「わるい! 兄さん、姐さん! やっぱ、種は種らしゅぅご主人のとこ戻っときますわ! 何かありましたら出てくるよって、そん時はご主人に頼んで呼び出して下さいな。ほな!」
「封印されるのあんなに嫌がってたのに、どうしたんですの?」
「そうですよ〜。シェルシェルさんの分もゴッターニ作ったんですのにぃ‥」
「怪しいですわね‥」
「ね‥姐さん、また人聞きの悪い! はっっ! あ、あいたたたた‥きゅ急な腹痛が〜〜 ほ、ほな、さいなら〜!!」
「シェルシェルさん行ってしまわれましたよ。もしや、ゴッターニをつまみ食いされたから‥」
「違いますわよ。あれは絶対何か隠してますわ。坊ちゃんのぬいぐるみ見てましたわね?」
「何か解りますかぁ?」
「ん〜‥?? ただのぬいぐるみですわねぇ? それよりですわ! ロマノフですの! わたくし、ピーンときてしまいましたのよ! 嫌な予感の正体はこれだったんですわーーー!!」
「クリス、どうしたの?」
「坊ちゃま。ああ見えてクリスは、それはもう全く普段通りなんですぅ。何も心配ございませんよぉ‥」
「バカなこと言ってないで、レオン! ‥あら? どうしましたの、坊ちゃま?」
「あのね、アワ‥」
「アワ? きゃーーー! レオン、鍋吹きこぼれてますわーー!」
「いけませんっ!! 煮立たせると味が落ちてしまうんですぅううう!」
「まあ! レオンが素早いですわ! どういうことですのっっ!!」
 あああ‥ 活気溢れるシャバの空気‥。
 名残惜しひ〜‥。やっぱり、いやだす〜、戻るのなんて! でもでも、わても命が惜しいよってになぁ‥。
 皆は〜ん。ちょっとの間ぁ留守しますけど、わて、必ず戻って来ますよってに、忘れんといて下さいや〜!!
 シェルシェルでっせ〜!
 ほな〜〜〜‥‥!

 


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