にょろり その3


私の小学校4〜5年の頃の転校先。
ここもすこぶる山奥であった。
山のてっぺんを切り取って開いた町らしく、居住地以外は山のまま。
森林に人間が迷い込むことを防ぐためか、イノシシやなんやらの進入を防ぐ為か、町の周囲は延々フェンスで囲まれていた。
その上、これだけ大自然に囲まれまくっているのに、町じゅうの地面はコンクリートやアスファルト張り。校庭や公園以外、土を踏む場所がほとんどないのである。

 ーー なんちゅう所に来てしまったのだ。

穏やかな平地から引っ越してきた私は、自転車にも乗れない勾配だらけのこの土地に不安を感じた(特にうちの近所!)。

そして、その不安は的中する……。

まず、変質者が出没するという理由で、登校時ばかりか下校時まで決められた道(すばらしく遠回り)を大人数で行くのが鉄則。かーなりわずらわしい。
夏休み中も、夕方7時以降は、親同伴でも外出禁止(何か間違ってる)。
夏の7時なんてまだまだ明るい! 私は暗くなってから、ベランダで寂し〜く線香花火をしたことを覚えている。

そして、これらに違反すると、週末にある反省会でチクられ、つるし上げをくうのである。それも魔女裁判のように無実の者まで陥れられるのだから、油断も隙もない。
私も「正月に商店街でアイスを買い食いしていた」という謎の罪を着せられた…が、正月にはおたふく風邪で撃沈していたことと、商店街が休みだったという事実が判明し事なきを得た。

 ーー なんちゅう所に来てしまったのだぁああ……(号泣)。

しかし、この苦痛でしかない集団登校の意義を再確認させられる日が来た。
その日は、恐ろしいほどに霧深く、1m先のものさえ見えなかった(ある意味楽しい)。
皆で手を繋ぎ、そろりそろりと長〜い階段を下っていく(しかし、一人転けたら全滅では?)。
が、こういうときに限って奴は現れるのである……。

 そう奴である……(変質者ではないよ)。

前方から「蛇やっ!!」と甲高い声が上がった。
その場に一瞬、緊張が走る。
しかし……。

 え? それだけ…??

女の子の悲鳴なんて「キャー」よりは「やーん」に近い。
前方から「こらこら、触るな触るな……」なんて声も聞こえる。
一体、何をやってるんだ?? かなり気になるが、視界が悪すぎて確かめることさえ出来ない。
数m下ると、階段の踊り場付近、逃げていく蛇のシッポが見えた。
とてもスリムだったので、マムシではなかったのだろう。
が、あれを触ってたの??

悲しいくらい「マムシ注意」の看板が立っているこの土地。
いちいち驚いてはいられないのだろうけど……。

 つ、強者どもめ……。

こんな上級生を見習ってか、低学年の子らまで動じない。
というより、よく分かっていないのだろう。ちょっとは怖がっといたほうが、今後の身のためだと思うのだが……。

さておき、マムシを見たら「敬して遠ざかる」これが基本。
奴らは地べたにいるので、頭上からの攻撃はほとんど心配しなくても良い。
その分、茂みにはいるときは要注意!
とくに産卵期のメスは凶暴で、1mくらいは軽くジャンプして襲ってくるという(←学校で習った T▽T)。

とにかく油断大敵。
公園で遊んでいても、飛び乗ったタイヤの下などにいて、人をビビらせてくれる。
それでも、いつの間にか、のんびりトグロを巻いている姿を見て、どうせなら巻きウンチのように綺麗に巻いたところを見てみたい……。などと阿呆なことを考える程度の余裕は出てきた。
フフフ…… 私も成長したのう。
ま〜 たかが蛇ってことかしら〜?

そんなある日……。
出席をとる前に先生が言った。

「今日は○○君はお休みです。マムシに噛まれました‥」


ひぃいいいいいい。たかが…ってのは嘘です(涙)



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