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▼ 名物スポットにいらっしゃ〜い♪(その7)

 暗いのは地下だから! ―― 冥界 その4


 愛の女神アフロディテの暇つぶし企画「神話世界一周旅行」に付き合わされるハメになった貴方。
 神々の伝令役ヘルメス神の案内で、今週も冥界観光に行ってみよ〜!

 三つの頭を持つ番犬・ケルベロスの守る青銅の門をくぐり抜け、ようやく冥界に足を踏み入れた貴方。

ヘル「とりあえず、ハデスのおっさん……じゃない、冥界の王に会っとく〜? 陰気な上に疑り深いから、勝手にうろちょろしてたら不法入国のスパイ扱いされかねないんだよね〜」

貴方「でも、ゼウス様の通行許可証があるじゃないですか……」

 貴方が頭に突き刺さった矢(※ 通称:どこでもフリーパス)を指さすと、ヘルメスがダメダメと…うざったそうに手を振る。

ヘル「あのオッサンの場合、天界が冥界侵攻を企んでいるに違いない……ってな発想に行っちゃうんだよ。被害妄想激しいから……」

ハデ「どーせ、俺は暗ぇよ……」ぼそっ

 突然、背後から聞こえた声に、思わず跳び上がるヘルメス。
 振り返ると、コワモテのたくましいオッサンが小さく身をかがめ、耳に手を当て、聞き耳を立てている。

ヘル「ハ……ハデスっ!?」

ハデ「悪かったな被害妄想激しくて……。一国の王なら、それくらいの用心深さが必要なんだよ。宴会と浮気ばかりしてるから、クーデターなんぞ起こされるんだ、ゼウスの奴は…」

貴方「天界でクーデターがあったんですか!?」

ヘル「以前ね。ゼウスの正妻ヘラが浮気に耐えかねて起こしたんだ。ポセイドン(海の王)やアポロン(太陽神)、アテナ(知恵の女神)も加わってたから、結構本格的だろ? ま、失敗して、ヘラは逆さ吊りのお仕置きされてたけどね(※1)」

ハデ「ポセイドンの馬鹿なんて、常に領土拡大を狙ってるからな…… 油断ならん」

ヘル「そーいや、この前もアテナと領土の取り合いして負けてたな。ポセイドンのオッサン(※2)」

貴方「へぇ〜 神様の世界も結構シビアなんですね〜」

ヘル「いや、ぜんぜん、そーでもないんだけど…… ^^;」

ハデ「甘ぇ、大甘なんだよおめぇは……」ぼそっ

 全体的に渋い印象のハデスだが、いつの間にか背中を丸めてしゃがみ込み、土に『の』の字を書いている……。

貴方「私達、何か気に障ることでも……」

ヘル「気にしなくていい。ああやってると落ち着くらしいんだ……」

ハデ「悪かったな、暗くて!」

ヘル「ところで、ハデス、王宮の外まで出迎えに来てくれるなんて、どういう風の吹き回しだい?」

ハデ「あん? 王妃の散歩に付き合わされてたんだよ。もうすぐ仕事なんで、館に帰ろうとしたら、おめぇらがいただけのことだ」

ヘル「ちょうど良かった。アフロディテ(美の女神)の発案で、この人を『世界一周の旅』に招待することになったんだよ。で、冥界も見せてあげたいんだけど……」

 貴方の脳天に突き刺さった「ゼウス謹製どこでもフリーパス」を見せると、ハデスは迷惑そうに顔をしかめた。

ハデ「このくそ汚い字は、確かにゼウス……。ん〜… とりあえず、あそこに座ってゆっくり話そうや……」

 というと、ハデスは館の門の入り口近くに置かれた椅子を指さした。

ヘル「ハ〜デ〜ス〜ぅ?」

 ヘルメスが冷た〜い視線でハデスを睨む。

ハデ「ちっ、覚えてたか……」

 やれやれと首をすくめながら、貴方に解説するヘルメス。

ヘル「あれは『忘却の椅子』と言って、人の記憶を消してしまう椅子なのさ(※3)。以前、王妃であるペルセポネをさらって自分の嫁にしようとした馬鹿な英雄がいたんだけど(※4)、そのときも、ハデスは英雄をこのイスに座らせて、自分が何をしに冥界に来たのか忘れさせてしまったんだよ…」

貴方「あの〜、ヘルメスさん。なんか歓迎されてないみたいですし、無理して冥界観光しなくても…。どうせ死んだら、また来るんですから……。それより、これ、ヘパイストスさん(鍛冶の神)から預かってきた、亡者の数を自動で数えてくれるカウンターです。亡者の数を把握するのが楽になるはずだ…って(この辺、嘘っす。信じないでね〜)」

 冥界に向かう前、ヘパイストスが手みやげにと持たせてくれた小さな箱をハデスに差し出す貴方。
 その手の平大の四角い箱をしげしげと見つめると、初めてハデスの顔に笑みが浮かび…… 添付の説明書を眺めるうちに、頬がニヤニヤとだらしなくゆるみはじめた。

ヘル「賄賂とはやるねぇ、君も……」

貴方「預かっただけですって! 人聞きの悪い…。けど、亡者を数えるのってそんなに大変なんですか? すごく喜んでるみたい……」

ヘル「いや。ただ単に、ハデスの趣味が、亡者の数…つまり自分の国の国民を数えることだから…」

貴方「金持ちが金貨を数えて喜ぶような感覚なんですかね?」

ヘル「俺には、ちょっと解らんけどね〜 ^^;」


 苦笑を浮かべてハデスを見守りながら…… 次回へ続くのだった。


 ※1 いっせーのーで、眠っているゼウスを皆で縛り上げたそうな……。
    ゼウスは雷を取り上げられていたために反撃も出来ず、空から吊り下げられそうになったが、「ヘカトンケイル」という五〇の頭と百本の怪力の腕を持つ巨人の一人がこれに気付き、百の腕で百の結び目を解いてゼウスを助けたという(クーデターに気付いた女神テティスがヘカトンケイルを呼んだとも言われる)。

    でもって、ヘラ女神はゴメンナサイするまで鎖で天から逆さ吊り。
    ポセイドンとアポロンは、一年間、人間の下僕となる罰を与えられた。
    アテナはおとがめナシみたいなんだけど、どーしてだろう〜?


 ※2 アテナイがまだケクロピアと呼ばれていた頃、この国の所有権を巡って、アテナとポセイドンが争った。
    ゼウスの調停で、人間に有益な贈り物をした方が所有権を得ることとなり、ポセイドンは海水の噴き出す泉を、アテナはオリーブの木を贈った。
    結局、ケクロピアの王はオリーブを選び、国名もアテナイとなった。
    ついでに言うと、負けたポセイドンは腹いせに、洪水を起こしている(おとな気ねぇ〜)。


 ※3 この椅子はハデスの宮殿の門の近くにあるらしい(それが「青銅の門」なのか別の門なのかは不明…… 申し訳ないっす)。
    あと、椅子ではなく「魔法の岩」…とする説もある(つーか、置いてある場所からして、この方が妥当かも〜)。

 ※4 「テセウス(その3)」の回参照〜。
    テセウスの親友ペイリトオスがこの誘拐の首謀者(もち失敗したけど〜)。


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