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▼ 名物スポットにいらっしゃ〜い♪(その11)

 暗いのは地下だから! ―― 冥界 その8


 愛の女神アフロディテの暇つぶし企画「神話世界一周旅行」に付き合わされるハメになった貴方。
 神々の伝令役ヘルメス神の案内で、今週も冥界観光に行ってみよ〜!

 生前に悪事を成した亡者達が送られる地「タルタロス」へ向かい、冥界のさらに地下深くへと進むヘルメスと貴方。

貴方「あのぉ〜? 予想外に遠いんですねぇ?」

 暗闇を落ち続けることに いい加減飽きてきた貴方に、同じくうんざりした声で応えるヘルメス。

ヘル「なんせ『タルタロス』までの距離は、さっきまでいた場所(『ハデスの館』や『アスポデロスの野』がある辺り)から天界へ行くより長いからねぇ〜。なんでも、亡者が九日九夜落ち続けて十日目にやっと辿り着くらしいぜ。一応、空飛ぶサンダルで加速してるから、もうそろそろ見えてくるハズさ…」

貴方「さっきみたいに加速しすぎて壁に激突しないで下さいよ〜」

ヘル「心配ないって。俺のトレードマークのこの羽付き帽子、何のためにかぶってるって思ってんの〜?」

貴方「まさかヘルメット代わりとは思いませんでしたよ…… ^^;」

ヘル「はっはっは、君ももう死んでるし、多少の事故は気にしない〜。つーわけで、もうタルタロスなんだが、減速に失敗した。地面に激突するから、ヨロシク……」

貴方「アホかーーーー!!」

 ―― ちゅどーん!!


ヘル「おーい、無事かーい?」

貴方「なんとかね……(怒)」

 もうもうと立ちのぼる土埃の中、ヘルメスが貴方を探している。ハデスから借りた「姿隠しの帽子」をかぶっている為、貴方の姿が見えないらしい。
 帽子をとって姿を現そうとした貴方だったが、凄まじい地響きが急速に近づいてくるのに気付き、慌てて帽子を深くかぶりなおし、ヘルメスの肩を叩く。

ヘル「そこにいたのかい? どこでもフリーパスは折れてないね?(※貴方の頭に刺さっている矢。その上から強引にハデスの帽子をかぶってる) ここに来た理由を門番に説明するのも面倒だから、君には姿を消していてもらうよ。けど、万が一、見つかってしまったり、はぐれたりした時には、それを見せるんだ。いいね」

 ヘルメスが言い終わるのと同時に地響きが止まり、薄暗い空が何かに遮られるように、更に陰った。
 見上げると、恐ろしい表情をした幾つもの巨大な顔が、ヘルメスと貴方を覗き込んでいる。
 暗闇に紛れてはっきりとは見えないが、凄まじい巨体の持ち主に違いない。

ヘル「やあ! 見回りご苦労さん。俺だよ、ヘルメスさ! 着地に失敗しちゃって、この通りさ……」

 巨大な顔達はあきれたように眉を寄せると、やがて、目元に微かな笑みを浮かべた。

巨人「すぐに灯りをともすよ……」

 巨大な顔が遠のくと、次第に周囲が明るみを帯び始めた。
 よく見ると、巨人が上空で幾つもの松明(たいまつ)を灯している。
 そして、灯りに照らし出された巨人の姿に、思わず、ヒッ…と息を呑む貴方。
 さっき見た何人分もの巨大な顔は、たった一人の巨人の首(?)から生えていたのである!

ヘル「彼はタルタロスの門番をしている百腕巨人(ヘカトンケイル ※1)の一人さ……」

 小さくささやくヘルメスの言葉の通り、その「百腕」巨人の肩からは無数のたくましい腕が生えており、その幾つかが巨大な松明を握りしめ、ヘルメスの進む道を明るく照らしている。

ヘル「タルタロスの守りはとても厳重でね、周囲には青銅の囲いがあって、入り口である青銅の門には、三人の百腕巨人(ヘカトンケイル)が睨みを利かせてる。その上、夜(ニュクス)が、タルタロスの周りを三重に取り巻いているからね…… これじゃ逃げようがない」

 先導する巨人の足音に合わせて、こっそりと解説を加えるヘルメス。

ヘル「厳重なのにも理由があるのさ。ここにいるのは、実は亡者達だけじゃないんだ。ゼウスが神々の王となる以前に この世界を支配していた神々が閉じこめられているんだよ。ゼウスは、先代の天界の主で父親でもあったクロノス(※2)と戦って、天界を手に入れたのさ。そして、負けたクロノス側の神々は、ここタルタロスの奥底に閉じこめられたって訳…。他にも、ゼウスに敵対したギガンテス(※3)らもここに落とされているんだ……」

 物憂い表情で付け足すと、ヘルメスは素早く周囲を盗み見て、「しっかり掴まってなよ…」と貴方に念を押した。
 そして、前方を歩く巨人に大きく声を掛ける。

ヘル「悪いんだけどぉー! ゼウスの用事で、急いでるんだー! 先に行くよ――ん!」

 言うなり、ヘルメスは巨人の鼻先に舞い上がり、バレないように貴方の腕を掴みながら、前方に見える巨大な門を一直線に目指した。
 
巨人「開〜門――!!」

 われ鐘のような巨人の声が、ヘルメスと貴方を追って、暗闇に響き渡る。
 それに応じるように、巨大な青銅の門が、残る二人のヘカトンケイルの手によって、ジリジリとこじ開けられていく。
 その門の隙間を「ごくろうさん〜」と陽気に叫んですり抜けるヘルメス。
 そして、わずかに開いた門が再び巨人達の手によって閉じられると、ヘルメスはニヤニヤ笑って、貴方を小突いた。

ヘル「ようこそ、ここが冥界の最深部タルタロス! 無事にここから出られるか? お楽しみだねぇ♪」


 ……連れて来といてそりゃないだろ(オイ)……ってわけで、次回に続く〜!


 ※1 五〇の頭と百本の怪力の腕を持つ巨人。三人兄弟。

 ※2 クロノス&レアーの回参照〜!

 ※3 ギガンテス(巨人族)の回参照〜!


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