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▼ 名物スポットにいらっしゃ〜い♪(その13)

 暗いのは地下だから! ―― 冥界 その10


 愛の女神アフロディテの暇つぶし企画「神話世界一周旅行」に付き合わされるハメになった貴方。
 神々の伝令役ヘルメス神の案内で、今週も冥界観光に行ってみよ〜!

 新たな名所(!?)へ向かって、高速で宙を駆けるヘルメスと、悲鳴を上げてぶら下がっている貴方。
 心配していた激突事故もなく、辿り着いた先は、ゴツゴツした岩肌をむき出しにした丘のふもと――。

ヘル「着いたぜ〜。これまた、嫌んなちゃうお仕置きだろう〜?」

 辺りを見回した貴方はすぐに、丘の頂上に向かって、大きな岩を懸命に押上げようとしている男の背中に気付いた。

ヘル「これが有名な『フン転がしの刑』さ……」

貴方「へぇ〜!」

ヘル「……って、信じるなよ…! ったく、困った奴だな君も〜」チッチッ!

貴方(いや、アンタがだよ…… −−;)

ヘル「彼はシシュポス(※1)。頭が切れすぎるばかりに、ココに送られた変わり種さ! 俺は結構、アイツを気に入ってるんだけどね。他の神々(やつら)は冗談ってのが分かんないからなぁ〜」

貴方「何したんです? あの人?」

ヘル「別に〜。行方不明になった娘を捜していた奴に、偶然目撃した誘拐犯の正体を教えてやっただけさ。ちょっとした賄賂と引き換えにね……」

貴方「それだけ? どちらかというと良い人なんじゃ?」

ヘル「チッチッチッ。何てーか、相手が悪かったんだよね。その誘拐犯の正体ってのが、この世界の最高神・ゼウスだったのさ。あの親父、恐妻家だろ? 若い姉ちゃん かっさらったなんて噂が、嫁さん(ヘラ)にバレたら一大事。もう、カンカンさ……」

貴方「それで、この罰……?(理不尽〜)」

ヘル「いやいや、まださ。アイツの見上げたところはここからなんだ」

 ヘルメスはニヤニヤと楽しそうに笑っている。

ヘル「腹いせにゼウスは、シシュポスを「あの世行き」にすることにしたんだ。ところが、アイツは迎えに行った死神を幽閉するわ、ペルセポネ(冥界の王妃)を騙くらかして一度死んだのに蘇るわ……、結局、ちゃっかり天寿を全うしちゃったんだよね〜(爆笑)」

貴方「はぁ、それで、ああなった訳ですか……」

ヘル「そ、ここはシシュポスを罰する為に作られた特別コースなのさ。あの大岩、あとちょっとで頂上……ってとこで、ゴロゴロふもとに転がり落ちる仕掛けになっててね、彼はその度に、ふもとに戻って岩を押し上げ直さねばならないんだ。永遠に休むことなくね……」

シシュ「まぁ、ボーッと死んでるよりはマシですな。体力増強にもなる。ん、肉体が無いって? ふっはっは、何事も気の持ちようですからな……」

 転がり落ちる大岩を追って、下りてきたらしい……。シシュポスが、わざとらしいほどに悠然と…こちらに近づいて来るではないか。
 やつれ果ててはいるが、眼光だけは異様に鋭いシシュポス。貴方とヘルメスの会話が聞こえていたのか(地獄耳?)、見えないはずの貴方のいる辺りを窺うように見ている。

シシュ「ヘルメス神、冥界からのお迎えが死神じゃなくアンタだったら、私もこんな所に来ることはなかったでしょうな〜(※2) フフフ」

ヘル「さぁて、どうだかねぇ?」

 ヘルメスは空とぼけて肩をすくめると、さっと貴方を連れて宙に舞い上がった。

ヘル「退散、退散。仕置きの邪魔なんてしたら、俺がエリーニュス(復讐の女神 ※3)達にシバかれる。彼女達は、重罪人へのお仕置きが趣味みたいだからね……。それに、素直すぎる君をシシュポスに近づけるのは、何かと危ない……(ニヤリ)。それじゃ、次は、もっとぶっ飛んだ男を見に行こうか!」

 そう言って、ヘルメスが再び加速しようとしたその時、ちらりと遠方に、腹を押さえて苦しみもだえる巨大な男の姿が見えた。
 ヘルメスが、それに気付いて。指し示すように顎をしゃくる。

ヘル「彼は、巨人のティテュオス。女神のレトー(※4)…… つまり、アポロンとアルテミスの母親を犯そうとした罰でここに落とされたのさ。まだ、お腹の中にいた、アポロン達が胎内から矢を放って、母親を助けって話だから、未遂なんだけどね……(何故、レトーは死なんのだろね?)。で、ああやって、毎日、ハゲタカに内蔵をついばまれる…って罰を受けてるんだ。彼の内蔵は一晩で回復しちゃうから、これまた永遠に続く罰さ……」

貴方「なんとなく分かってきましたよ。とりあえず、神を冒涜(ぼうとく)すると、タルタロスに送られちゃうんですね……」

ヘル「ははは、まぁ、そんなとこかな。彼の場合は、事情が特殊だけどね。実は、彼、ゼウスの浮気で出来た息子でね。それを憎んだヘラが、レトーを襲うように、彼に欲情を吹き込んだらしいよ。レトー自身もゼウスの浮気相手だからね、上手くいったら万々歳だったんだろうけど……」

貴方「ひ〜……」(泣)
  (ヘラ様にだけは目を付けられたくありません〜。ドキドキドキドキ…)

 貴方のかすかな悲鳴を聞きながら、ヘルメスが可笑しそうに続ける。

ヘル「ところがさ、その嫉妬深くて、おっそろしい〜ヘラ女神を、誘拐して、モノにしようとした奴がいるんだぜ……。くっくっく。まぁ、えらい美人なのは認めるけど、普通考えないよなぁ……」

 ツボに はまったらしく、一人で笑いだすヘルメス。

ヘル「今から見に行く、ぶっ飛んだ男ってのが、そいつでね。イクシーオーンっていうんだ(※5)。君には刺激が強すぎるだろうけど、なかなかスペシャルなお仕置きをされてるよ。燃えさかる火の車に縛り付けられ、ぐるんぐるん回転しながら、冥界の鬼にムチ打たれ続ける…っていうね」

 貴方がポカ〜ンと口を開けていると、突如、ヘルメスが緊張したように身構えた。

「ここにいましたか、ヘルメス……」

 闇の奥から――
 冷たく押し殺した女の声が流れるように響いた……。ってことで、次回に続く〜!



※1 「シシュポス」の回参照〜。わーい、内容ほとんど被ってる〜。

※2 本来、ヘルメスが迎えに行くべき所を、(ゼウスの嫌がらせで?)格下の死の神タナトスが迎えに行った。
  けど、そのタナトスが、シシュポスに捕まって幽閉されたので、その間、人間世界では死者が出なかったそうな〜。
   タナトスの回、参照〜!

※3 「エリーニュス」の回参照〜。

※4 「レトー」の回参照〜!

※5 「イクシーオーン」の回参照〜!!


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