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▼ 名物スポットにいらっしゃ〜い♪(その16)

 美貌のヒ・ミ・ツ♪ ―― カナトスの泉


 愛の女神アフロディテの暇つぶし企画「神話世界一周旅行」に付き合わされるハメになった貴方。
 恐れ多くも神々の女王ヘラの案内で、今週も行ってみよ〜!


 意外に優しいヘラ女神に連れられて、次に目指す地は「カナトス」。
 そこは、ギリシア本土にあるらしく(※1)、久々の帰国(?)に、なんだかホッとする貴方。
 ここで貴方は「最も美しいヘラを見る」栄誉を与えられるらしい……。

 ヘラ……といば、嫉妬深い目のつり上がったオバサンを想像していたのだが、実際は美の女神に勝るとも劣らぬほどに美しい。
 以前、親切にしてくれた鍛冶の神ヘパイストスも、ヘラの息子だそうだが、とても何人も子供を産んだ母親には見えない(つーか、どう見ても息子より若いし……)。

ヘラ「良いですか、これから見る場所の秘密は、誰にも言ってはなりません。いくら そなたでも、それ相応の罰を与えねばなりませんからね……(にっこり)」

貴方「(ゾゾゾ)…………。それなら、次の場所はパス……ってことで」

ヘラ「ほほほほ。神は一度した約束をひるがえせません。それとも、最も美しい私を見る栄誉などいらぬと……?」

貴方「ま、まさか、今でさえ十分お美しいのに、それ以上となると……。正直、目がどうにかならぬかと心配なのです……」(い…今、鋭〜い視線がグサッときたよ、グサッと)
 とっさに、アポロンがささやいていた、クサ〜いセリフを引用する貴方(TT)。
 ヘラはその答えに満足したように穏やかに微笑むと、馬車を降下させはじめた。

 そうして、辿り着いたのは、清らかな水をたたえる泉――。

ヘラ「私は年に一度、春になると、この泉にやってきて沐浴するのです。すると、一年の間に溜まった、主人への怒りや嘆き不信…… コホン、ともかく諸々の苛立ちを洗い流すことが出来るのです。そして、主人と初めて出会った頃の美しい体に若返り……むにゃむにゃにゃ…」

貴方「え?」

ヘラ「(こっそり)なんと、処女性まで取り返してしまうのです……」

 少し赤面して貴方に耳打ちするヘラ。貴方はどう反応を返せば良いのか分からない。

ヘラ「コホン……。とにかく そなたは、そちらを向いて待っておいでなさい。決してこちらを覗き見てはなりませんよ!」

貴方「は、はい。しかし、あの〜。神様には関係ないかもしれませんけれど…… 今、冬ですよ……」

 凍ってはいないが、凛と澄み渡った泉は痺れるほどに冷たそうに見える。
 そっと指先を泉に浸けたヘラの動きが止まった……。

ヘラ「ほほほほ。どうということはありません。ただ、この様な場合は、水そのものや魚に変化することが多いのですよ……。出来ればリラックスして入りたかったのですが……」

 何気に躊躇しているヘラに、助け船を出してみる貴方。

貴方「今回は、顔だけ洗うって訳には〜? 最も美しいお顔を見せてくだされば、誓いを破ったことにはなりませんよね? どうせ、恐れ多くて、お体の方は見られませんし(^^;)」

 ヘラはそれもそうね……というように肯くと、泉の水を手に取り、何度か顔に当てた。 そうして、振り返ったヘラは、大人の女性というよりは初々しい乙女の表情を浮かべている。

ヘラ「ほほほ、やはり若い肌は、水の弾きが違う……」

 呆然と見つめる貴方に、麗しい笑みを見せるヘラ。言ってるセリフはオバチャンのままだが、とろけるように美しい……。
 この旅で、いい加減、美形と化け物は見飽きたつもりだったが、さすがに主神ゼウスが正妻に選んだだけあって、美しさも別格。何より、風格がある。
 
ヘラ「あら? あなた、こんな所までどうなさったの?」

 ふいに声を上げたヘラの見つめる先に、貴方が顔を向けると、そこにはイライラした様子のゼウスが立っている。天界の神殿で女神の尻を眺めていたのを覚えているので、間違いない。

ヘラ「あ! もしかするとあなた、この私が浮気をしているとでも〜? ふふふ、まさか、あなたがヤキモチですの? 馬鹿ですわね、私が愛しているのはあなたお一人……♪」

 とたんに、ゼウスの鼻の下が、ででで〜〜〜っっと伸びる。
 全知全能のゼウスである。貴方とヘラがここにいる理由など、はなから分かっているに違いない。イライラしているように見えるのは恐らく……。

貴方「お邪魔そうなので、帰ります〜〜(嗚呼、急に笑顔になったよゼウス〜)」

 熱〜い眼差しを送り合うゼウス・ヘラ夫妻に背中を向けて歩き出す貴方。
 それにしても、この行動の速さ。ゼウスの美女センサー恐るべしである……。

ヘラ「あら、お待ちなさい。ダメですよ。一人では、浮遊霊になるのがオチです。誰か案内を付けましょう。そうそう、あなた、あの者を早く生身の体に返してやって下さいな……」

ゼウス「うむ。ヘルメスやヘパイストスからも聞いておる。なかなか見どころのある人間のようじゃな(王妃が美しくなっておるし♪)。しかし、すぐは無理じゃな。先に、二、三、片付けねばならんことがある。わかるな?(アポロンやらアフロディテのことじゃぞ) 子細はヘルメスに任せたので、そのうち迎えに来るじゃろ」

ヘラ「ヘルメスなどを、当てにして大丈夫なのですか?」

ゼウス「これこれ王妃よ、せっかくの麗しい顔を曇らすではない。ま、人間よ、そちはよくやった。後ほど褒めてとらすゆえな……」

 ヘラ女神を抱きかかえると、貴方に「ではのぉ〜♪」とスケベな笑みを送るゼウス。
 同時に、周囲に緑が溢れ出し、花が咲き乱れる。

貴方(おお、おっさん、ムード重視……!?)

 貴方が、そそくさとその場を後にすると、ふいに、背中に羽をもった女神が目の前に降り立ち、虹の橋を架けて、貴方を天空高くへと誘った。

イリ「こんにちは。先ほどもお会いしましたね。私、ヘラ様にお仕えしております、イーリスと申します(※2)」

貴方「虹の女神様?」

 貴方はエスカレーターのように乗った虹を見回しながら尋ねた。

イリ「はい。まもなくアポロン様がお目覚めになりますので、お迎えに参りました。あ、そのように、心配なさらなくとも大丈夫ですよ……」

 気難しいと評判のヘラ女神に仕えているだけあって、かなり出来た女神らしい。
 自分よりも腰の低い女神……に戸惑いつつも、イーリスの慈愛に満ちた眼差しに、
今までの緊張がほぐれていくのが分かる。

貴方(嗚呼、何だか私…汚れたなぁ……)

 命がかかっているのだから仕方はないが、神々の機嫌を窺い、口先だけのヨイショをしてきたことを振り返り、溜め息を吐く貴方。
 汚れないイーリスの笑みを眩しく感じながら、次回へと続くのだ〜!!(なんじゃそら)


※1 ペロポネソス半島にあるそうな〜。

※2 イーリスの回参照〜!


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