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▼ 名物スポットにいらっしゃ〜い♪(その19)

 終点はやっぱり? ―― エーゲ海 & アテナイ


 愛の女神アフロディテの暇つぶし企画「神話世界一周旅行」に付き合わされるハメになった貴方。
 最終回は、またも伝令神ヘルメスの案内で行ってみよ〜!

 海に行けば、一通り世界を回ったことになり、今回の旅も終了〜!
 そう告げるヘルメスに連れられて、一路、大海原を目指す貴方。

貴方「西の果てで、世界の周りを取り囲んでる大洋河・オケアノスを見ましたけど、あそこは海じゃないんですか?」

ヘル「…………君。本当に、とっとと旅を終わらせたいみたいだね……(^^;)」

貴方「いや〜。なんだかトントン拍子で上手くいってるので、そろそろ邪魔でも入りそうな気がして……」

ヘル「ははは、心配性だなぁ……と言いたいところだが一理ある。別に海中で魚やネーレイスとたわむれたいなんて野望はないんだね?」

貴方「? ネーレー……」

ヘル「ネーレイスは海の精霊(ニンフ)達さ(※1)。大らかな美人揃いだけど、彼女らのバックには海の王・ポセイドンがついてるからね、怒らせないのが身の為なんだ。ポセイドンのおっさんは、ほんと気分屋で好戦的だからね……。気に入らないことがあると、街を津波で沈めたり、怪物に襲わせたりするんだぜ……。ハハ、近づきたくないって顔してるね」

 ヘルメスは貴方を覗き込むと、足元を指さした。
 ちょうど真下の辺りに、陸地と海とを分ける海岸線があり、前方には明るい色をした海面がきらめいている。

ヘル「じゃあ、今回は上から見るだけにしておこうか。海の神々は、肌の色も緑やブルーだったり、鱗が生えてたり、下半身が魚だったり…… 色んな姿をしてるからね。君たち人間から見れば化け物に見える奴もいるだろうね。まぁ、そんな神々がオリュムポスのように、宮殿にたむろってる所を想像してくれたらいいかな……」

貴方「海の中の…ですか?」

ヘル「そ。(エーゲ)海の深みにある、ポセイドンの宮殿さ。ポセイドンは、たまにオリュムポスに出向く以外は、大抵、海にいるんだ……。ほら、この辺一帯は島が多いだろう? 一番南の…遠く沖の方に見える大きな島が、クレタ島かな。半牛半人の怪物ミノタウロスを閉じこめた迷宮(ラビュリントス)があるので有名さ(※2)。あ、そうそう、ついでに僕らの真下にある街がアテナイだよ」

 上空からなので、よくは分からないが、海に面した大きな街が見える。

貴方「アテナ女神の神殿があるところですよね」

ヘル「そう、知恵の女神・アテナの街さ。昔、この地を、アテナとポセイドンが取り合いをしてね、ゼウスが仲裁に入ったんだ『双方、この地に役立つ贈り物をしろ』ってね。ポセイドンは塩の湧く泉を、アテナはオリーブを送り、当時の王はアテナの贈り物を選んだんだ。で、アテナの所有地になったってわけ。この辺って、結構、山がちだろ? 塩の採取よりもオリ−ブ栽培に適してたってのが決め手だったみたいだね。じゃあ、海も見たことだし、行くかい?」

 貴方の手を引き、またも高速で空を駆けるヘルメス神。
 1分後、地響きと共に大地に激突する。

ヘル「いてて……、無事か〜い?」ハハハ

貴方(死んでて良かった、死んでて……)

ヘル「危ない、危ない。もうちょっとずれてたら、君の肉体がこなごなになるところだったよ…… ハハハ〜」

 見ると、野原の真ん中には、コロンと貴方の遺体が転がっている。

ヘル「おいおい、こんな所に置きっぱなしかよ。狼に喰われてなくて良かったぜ」

貴方「腐ってないですよね……冬だし」

ヘル「怖いこと言うね……(汗) その点は心配ないさ、仮死状態だから」

貴方「凍えて死んでる……ということは?」

 ヘルメスは、多少、マズいな…という表情で貴方の肉体を見下ろした。

ヘル「と、とにかく、戻ってみなよ。ほら、肉体に重なるように体を重ねて……。おーい、頭がちょっとずれてるぞ。……よし、矢を引き抜くぜ。そうすりゃ、君は元通り!になるはずさ。戻らなかったら……。うーん……その時は、ゼウスにでも任せるさ。面倒だからって、神の末席に加えてくれるかもしれないぜ?」

貴方「いえ〜。あの世行きでお願いします〜。えっと…、その時は、また連れて行ってくれますか、冥界へ?」

ヘル「また何で? いい話なのに? まぁ、君がそう言うなら、約束するけど……」

貴方「不老不死も良いですけど、やっぱり……好きなんですよ……人間」

 へへ……と照れたように笑う貴方を不思議そうに見つめ、ヘルメスの瞳が穏やかに笑った。
 じゃあ、行くぜ……と、矢を握りしめるヘルメス。そして、貴方の頭から力任せに、

 ―― ズッポーーーン!!

ヘル「抜けたぞ! おいっ、生きてるかー?」ビシビシ

貴方「……痛いです〜」

ヘル「おお! やったな、生還したぞ! 体は変じゃないか? アリに喰われてないか?」

貴方「はは、なんとか……。でも、なんだかとってもお腹空いてます(笑)」

ヘル「生きてる証拠さ! じゃあ、俺は行くぜ! 次に会う時まで達者でな!」

貴方「次?」

ヘル「約束しただろ? 『お迎え』…さ!」
 
 ニヤっと、人の悪い笑みを浮かべ、飛び去るヘルメス。
 貴方は大きく伸びをすると、何事もなかったかのように、家への道を辿り始めた。
 あの世への「お迎え」、その再会を密かに楽しみにして……。

 その頃、貴方をこの旅に巻き込んだ美の女神・アフロディテはというと……。
 軍神アレスとの浮気現場を、ダンナである鍛冶の神・ヘパイストスに押さえられ、こってりと絞られていたのだそうな……。

                        おしまい♪


※1 「海の老人」と呼ばれる海神・ネーレーウス(賢く温和だったらしい)の娘達。
    五十、もしくは百人いると言われる。


※2 エーゲ海は、アテナイの王・アイゲウスが飛び込んだことから名付けられた。
   (「テセウス その2」を参照〜! ミノタウロスの回もついでに、どぞー!)
   あと、クレタ島の近くはクレタ海と呼ぶらしい……。

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