☆  Lesson 4


「何ですのーー!? 見えませんわ、何も!」
 ク、クリスティンですわ〜〜‥。
 いきなり不吉ですわ、皆様。
 お屋敷に一歩、足を踏み入れたとたん、目の前が真っ黒になりましたの‥!
 同時に、緑色に発光しだしたレオンの髪の毛。そのおかげで、視力を失ったわけではないことは分かりましたけど‥。
「どうなさったんです、クリスぅ〜?」
「きゃぁああぁーーー! 振り向かないでーー!!」
 髪の毛の光を受けて、暗闇の中にレオンの顔だけが浮かび上がってますの。恐ろしい‥‥。
「レオンっ‥? お待ちなさいな、どこに行くんですの? もしや見えていますの、この暗闇の中!?」
「暗闇‥ですか? 明るくはありませんが、カーテンも開いておりますし、いくつかランプも灯っておりますよ‥?」
「何も見えませんわよ、私! ああ‥ でも‥そこはかとなく灯りらしきものが見えますわ‥ あ、ほんとう‥ なんとか‥ 見えてきましたわ‥」
 驚きましたわ。いきなり周囲のものが見えなくなるなんて‥。明るい外から、急に暗い室内へ入ったのが原因らしいのですけれど‥。こんな体験は初めて。
「あら? レオンの瞳‥ 元に戻ってますわ‥」
 糸のように細くなっていた瞳は、すっかり元通り。
 髪の毛の発光は収まってませんけど。どうやら陽光を浴びると、こうなるようですわね。
 色々と信じがたいことが起きますわ、人間界は!

 まあ、それはともかく、とっととロマノフに落とし前つけさせねば なりませんわね!
 結局、私達、お隣に坊ちゃんをお預けしたまま、ロマノフを追って来たんですの‥。
 あの道子とかいう人間、レオンと同様、頭の配線がズレていて助かりましたわ!
 ロマノフに何か失礼なことでもしたのではないか‥って、心配までしてましたのよ。ご近所付き合いは、ひとまずセーフといった所ですわね。
 それにしても、やはり問題はあの男‥ ロマノフ!
 壁をぶち抜いて走っていくなんて、生身の悪魔のすることじゃありませんわ! 壁には、くっきりロマノフ型の風穴。ついでに、この瓦礫の山、どうする気ですのよ!?

「ななな、何ですの、これはーー!?」
 屋敷へ入って、三つ目のドアを開けた時、わたくし目眩を感じましたわ。
 どこまで続いてますの‥!? 
 ロマノフの形にくり抜かれた壁が遙か彼方の部屋にまで続いておりますの。屋敷内が亜空間じゃなかったら、近隣への被害は避けられませんでしたわ!
「どうしてくれますのよ、ロマノフーー!!」
「まぁ、まぁ、クリ‥ 」
「ほんま、えらいこっちゃな‥。うちのご主人、あたま沸騰しおると、何しでかすかわかりまへんよってなぁ‥」
「‥‥‥あんた‥‥ 何?」
 ついに幻覚まで見えてきたようですわ。
 黄色いチューリップ型の花が、根っこと葉っぱを ふよふよさせて‥宙に浮かんでおりますの‥。
 その上、その花にはご丁寧に顔が付いていて、ご機嫌そうに笑っていますのよぉ〜! 私、少し休養させていただきますわーー!
「申し訳ありまへん。ご挨拶遅れましたなぁ‥。わて、シェルシェルいいますねん。ロマノフ様の家に代々使える使い魔ですわ。うるさいゆうて、ご主人に封じられとったんやけど、今のショックで解放されたんですわ」
 幻覚‥では、ありませんのね? 良かったですわ‥。
「まあ、これはこれは、ロマノフさんのところの使い魔さんですかぁ〜! 初めまして〜‥」
 何、平然と応対してますのレオン‥。
「使い魔ねえ? 初めて見ますわ‥。あれですわよね? 魔法の種の‥」
「姉さん、博識でんなぁ! そうです! わてが数少ないほんまもんの魔法の種! 市場に出回っとる、しみったれた種と一緒にせんとって下さいや!」
 魔法の種といいますのは、種々の魔法を封じ込めておいて、必要なときに引き出せるようにした種のことですの。実を申しますと、私達が苦もなく人間と会話出来ますのも、翻訳用の魔法の種を食べたからなんですのよ。便利な魔法のアイテムといったところですわ。品質の良い種は高価すぎて手が出ませんけど、私達が食したのは官物支給の種ですから関係ありませんわね‥。
 ええと、使い魔の話しでしたわね‥。
 超古代から引き継がれた一部の魔法の種には、意志を持ち、実体化するものさえあるのだそうですわ。大昔には、身の回りの雑事のために、この手の種を使い魔として使っていたらしいんですの。大貴族であるロマノフの家に受け継がれていても不思議はありませんわね。それにしても‥
「そのまんま すぎますわっ!!」
 葉っぱで、顔‥いいえ‥花びらをぽりぽり掻いてるチューリップなんて、イーヤーですわーっっ!! 根を2つに分けているのは足のつもりなんですの!? いくら”種”とはいえ‥
「わかりやすうて ええ思たんですけどな‥」
 絶対、馬鹿にしてますわ、この種‥!!
「ク、クリス〜 穏便に〜‥」
 一発、この箒(ほうき)を食らわせてやるのよ、お放しなさいレオン〜!!
「なんやなんや、もめとるようでしたら、わてが引き受けまひょか? わてこれでも大昔人間界にいたことありますんやで。砂漠のあっつい国でしたけどなぁ‥」
 何遠い目してますのよ、この種。まあ、いいですわ‥。
「それって役に立ちますの?」
「はっはっは、立ちまへんなぁ〜。ああ、ちょっと待ちぃな、姐さん! 年代もんの魔法の種なめたらあきまへんで! ちょいと人間の頭に入り込んで、情報収集するくらい訳ないことですんや」
「え‥ 何ですの? そんなことしますの??」
「はっはっは、そのかわり、前に集めた情報みんな飛んでまうんですけどな‥」
「ああ、それ知ってます! ところてん方式って言うんですよ、人間界では!」
「何言ってるのよ、レオン?」
「そうや、わけわからんこと言わんといてーな、兄さん!」
 あ‥ 落ち込みましたわ、レオン‥。
「いいんですぅ‥ それよりロマノフさん放っておいてよろしんでしょうか〜」
「そうや! あいた〜! 兄さん痛いとこつくわ!
使い魔が主人忘れてどうすんだってーの! だいたい、ご主人から離れすぎたら、わて力失うてしまうんですわ‥」
「平気じゃない?」
「‥‥‥あんた方、何者ですのん?」
「こっちの、セリフよっ!!」
「姐さーん、怒らんといてーな! 他意はないんや〜。お二人共、ご主人と同じくらい力感じますよってな。わて、ずうっと封じられとったさかい、全然、力でえへんのですわ。ほんま、魔力浴び続けとらんと、この姿保ってられまへんのや」
「保ってるじゃない?」
「だから不思議ゆーてますのや! ‥ちょっ‥ に、兄さん! その額の! 封冠ちゃいますのん?」
「封冠? なんでそんなものしてるのよ、レオン?」
 レオンの額には、中央に緑の石をあしらった銀色のサークレットがはまっておりますの。悪趣味だとは思っていたんですけど‥!
 封冠といえば、魔力を封じるためのアイテムですのよ?
「あ‥ これですかー? よくわからないんですけど、前々回の公務員試験の時、いただいたんですぅ」
「あああああーーーっ!!! れおん? もしかして、レオンって、破壊魔レオン!? 二度も試験場ぶっ壊したっていう!?」
 先年‥でしたかしら、試験中に魔力を暴走させて、試験を中断に追い込んだ伝説の悪魔がいるんですの‥。
「なんですかそれ〜? 以前の試験の時は、気が付いたら家にかえってまして‥。そして枕元には不合格の通知が‥ まだ発表日でもないのに!! しくしく死苦‥」
 うそですわっ、こんなのが伝説の破壊魔なんて! 凶悪な悪魔じゃありませんでしたの! 間抜けすぎますわ! そんな訳!‥‥ありませんわね。 こんなトロくさーいのが伝説になるわけありませんものね。 わたくしとしたことが、つい取り乱してしまいましたわ‥。
「は〜‥ ともかく兄さんも、力の制御がおっつかんお人ですねんなぁ〜。うちのご主人も時々暴走させおりますんや。 まあ、それくらいの力持ちでないと、わての主人には なれまへんのですけどな‥。 いや、兄さん。気に入りましたわ! 姐さんも、なんや気合いビシバシはいりまくってはりますしなぁ! わても何や、初心に返ったような清々しい気ぃしますわぁ‥」
「あのぉ〜 ロマノフさんはー?」
「ああ、そやそや兄さん! また、忘れとりましたわ!」
 葉っぱで頭(花)をぺしぺし叩くチュ−リップ‥。
「行きましょレオン。放っておいていいですわ」
「はい〜〜」
「ああ、ちょっと待っとくんなはれ! 貴重な魔法の種でっせ〜! 役に立つんでっせ〜!」
「力の消えかけた種なんかに、用はありませんわ!」
「な、な、な、何言いますのや! 力蓄えたときの、わての凄さしりませんな?」
「蓄えたら‥ でしょ? 一体何年かかりますの? サイズからしても、蓄えても大したことないんじゃありませんこと?」
「クリス〜 そんな言い方しなくても〜」
「じゃあ、早く人間界の情報とやらを集めて見せて下さいな! ロマノフがぶちあけた穴を塞ぐのでもかまいませんわ!」
「い、い、い、今は出来まへん! くそ、いまいましいけど、姐さんの言うこと当たりですわ! けどなぁ、わてかて‥」
「ねえ、ロマノフあれ何してますの‥」
 何十枚目かの壁を通り抜けようとして、目に飛び込んできたのは、どんよりと うなだれたロマノフの姿。
 わたくし慌てて身を隠してしまいましたわ。家具も何もない空間で、一人壁にもたれて座り込んでいますのよ!
 何を企んでいますの!?
「は? あれでっか‥。 落ち込んでますのや」
「ロマノフが??」
「ご主人ああ見えて繊細やさかい。いつものことですんや、気にせんとってくださいや〜」
「あなた、私達たぶらかして、どうする気?」
「な、何、人聞きの悪いこと言うてますんや! わてがどうして! 姐さん、ちょっと、姐さんて! 人の言うこと最後まで聞きや!」
「うるさいですわよ。それより、あれ何ですの? ロマノフの周囲で出たり消えたりしてますのは?」
「ああ、あれはご主人の心の叫びですのんや。考えたことが文字になって、表れてしまいますのんや‥」
「何‥それ?」
「ご主人、お小さいときから口下手でしてな、その上、あの無表情でっしゃろ? 大奥さん‥って、わての前の前のご主人の嫁はん、まあ、今のご主人の祖母にあたるお人ですけどな、なんやご主人のこと、えろう心配しはりましてなぁ‥。安もんの魔法の種食わしおりましたんや、ご主人に」
「それで、ああなったわけ?」
「考えてること解れば、会話はなりたつ言わはりましてな‥。せやけど、ご主人、えろう嫌がりましてなぁ。口ばっかりか、心まで閉ざすようになってもたんですわ」
「とめどなく逆効果ね‥」
「そう、全くそうですのんや! わてが、ご主人付きになったときは、魔力でその種の力 押さえつけてはりましたけどな。なんや一人の時とか、気ぃ抜いてると、種の魔法が発動するんですわ‥」
「あなたも、それで出てきたわけ?」
「わては、ちゃいます! わてはご主人が必要としたときに復活するよう封じられとったんです。種の原形に戻されて、先代からご主人のとこ渡されたんが数年前。それからずうっと不遇かこうとったんやけど、やっと今日、こうして陽の目をみたわけですわ!」
 ふーーん。
「なんです、信じてまへんな、その目は。わては力抜かれて種に戻ってる間も、ちゃんと‥ 時々でっけど、ご主人の様子見てましたんや! いつ呼び出されても、すぐお役に立てますようにな!」
「それじゃ、お役に立てば?」
「それが出来れば苦労しまへんがな! 今回なんでご主人ブチ切れおったんか、わからしまへんのや!」
「役に立ちませんわね〜」
「そういう姐さんは、どうなんです? わからはるんでっか?」
「私がロマノフのことなんか解るわけないでしょ! 失礼ですわねっ!」
「お、お、落ち着いて下さい二人とも〜 ロマノフさんに気付かれちゃいますよ〜」
 はっ‥
「だーーー! 気付かれてもーたぁーー!」
「きゃー、何だか目つきがいつにも増して凶悪ですわよ! なんとかなさいな、あなたの主人でしょうー!」
「無茶言わんといてくださいな、もう、あれは慣れるしかありまへんのやーー! あっ、あっ、ご主人ー! お久しぶりでございますー! シェルシェルですー! 覚えてはりますかー? ちょっとイメチェンして縮んでまいましたけど、わてですねーーん!」
「きゃーー、なんで私の後ろに隠れますの! 卑怯ですわよ!」
「大丈夫です、ご主人はわてが出てきたことに驚いてはるだけですさかい!」
「言われなくてもわかるわよ! 顔の横に”どうして魔法の種が‥”って、文字が浮いてますものーー!」
「わて、きっと元に戻されてまいますーー! 姐さん、助けとくんなはれ〜〜!」
 え‥‥?
「きゃーー! どこ行きますのロマノフ! 壁ぶち抜かないでーーー!!」
「ロマノフさん〜〜〜! そっち行くと、外でちゃいますよ〜〜!!」
「ああなったら、力尽きて、止まるの待つしかないんですわな‥」
「あんた、何 悟りきってんのよ! それより、今のは何! ロマノフ、顔が真っ赤でしたわよ!」
「そうですね、そしたら急に走り出して‥ どこかお悪いところでも‥」
「ちゃうちゃう! 照れとるだけですがな、今、姐さん、ご主人の心の文字読まはりましたやろ?」
「は? ロマノフが照れるなんてあるわけないじゃない。ねえ、レオン?」
「いや〜 それはなんとも〜。でも赤くなっても無表情でしたよね‥」
「そーそー!」
「かーー! それがうちのご主人の可愛いトコやないですか!」
「どこが可愛いのよ! 気持ち悪いこと言わないで下さいます?」
「まーまー、それよりですな‥ なんでわてが復活出来たんかが問題なんですわ。ご主人の心が何かの助けを求めたってことですさかいな‥」
「あの男が助けをねぇ‥。考えられませんわね」
「そうですねえ、あんなご立派でらっしゃるのに〜」
「心配なら、本人に聞いてみればよろしいんじゃありませんこと? その為に呼ばれたんでしょう?」
「ダメですーー! わて消されてまいますー! そこだけは妙に自信ありますねん! みんなが欲しがるこのわてを一回も呼び出したことないんでっせ! きっとおしゃべりが嫌いですのんや! そして魔法の種も嫌いですのんや〜」
「そーなんですか!? ああ、私も嫌われてるんでしょうか〜」
「なんや、兄さんもシャベリかいな?」
 何の心配をしてるんですの、レオン‥。
「どちらにしても、人間界での魔力の使用は厳禁ですものね。種には早々に消えていただかないと‥」
「姐さーーん。そりゃないですわ〜! 後生ですさかい。そこをなんとか!」
 あ、そうそう、翻訳用の魔法の種は限定解除になってますのよ!
「クリス〜 やっと外に出られたのにお気の毒ですよ〜。
屋敷内だけなら魔法も問題ありませんし、それに、人数が多い方が楽しいですよきっと〜」
「兄さんーー! ええお人や、あんたーーー!」
 それと、屋敷内も魔力の使用可ですの。
「聞いてくださいよぉクリス〜、ロマノフさんの家に伝わる使い魔さんでしたら、ご立派な悪魔の生活もご存じだと思いますし〜。坊ちゃんのお世話について、色々お教えいただきたいです、私〜」
「そうです。そうです。わて働きますで〜!」
 と、いうわけで、復活した使い魔シェルシェルを加えて、人間界で生活はスタートするのであった!
「何、ナレーションしてますの、この種っ!! どうあっても居座る気ですわね。でも、そんな訛りまくっていては司会進行は務まりませんわよ!」
「そ、それは心配ない! わてもそれくらいのことわかっとる。司会進行は没個性。そうやろ? でも、この言葉遣いは、貴族の奥向き用で、訛りとちゃうんやで!」
 と、いうわけで、クリスとレオンの二人は、走り去ったロマノフを追って、人型の穴があいた壁をくぐり抜けるのであった。
「なんだか、私達を都合良く誘導しようとしてませんこと?」
「そそ、そないなことあらへんで! それより、急ごや!」
「そうですとも、早く坊ちゃんをお迎えにあがらなければなりませんし!!」
「ああ、もうわかりましたわ。とにかく、ロマノフふん掴まえて、何考えてんだか聞き出さないと始まりませんわ!」
 と、いうわけで、つづきまっせ〜!

     *

 皆は〜ん、こっちでっせ。
 ご主人、今度は少し落ち着いてはったようですなぁ‥。階段上った突き当たりの壁に、わずかに人型が付いてるんでっけど、人型トンネルはここで最後みたいですわ。
 わての勘が正しければ、そう遠くには行ってまへん。この辺のどっかに居てはりますわ‥ ほら、居はった。
 階段上がって右、まっすぐ突き当たりの部屋。部屋ゆうても空間が固定されてまへんよって、移動可能な壁で適当に仕切ってあるだけですのんや。空間が不安定になると、壁が出たり消えたりするよって、一目瞭然でっしゃろ? 
 けど、ご主人の入り込んだ部屋は、以前に誰ぞ使ってはったんかもしれませんな‥。申し訳程度に付いたドアが半ば開いていて、その向こうに窓があるんですわ。外が見えるってことは、この部屋は人界に次元固定してあるってことですよってなぁ‥。
「ロマノフ、何見てますの?」
「窓の外ですねぇ? お隣さんでしょうかぁ‥」
 これだけ堂々とドアの隙間から覗いとるのに、ご主人、一向に気付く気配ありませんなぁ。心の文字を押さえる気力もないようですし。
”どうしてしまったんだ私は!”
”あなどれん人間界!”
 なんや、大したこと考えてませんなぁ?
「どういう意味ですの?」
「御自分でも、わかっておられないようですねぇ〜‥」
「解らないで済む問題じゃありませんのよっ!!」
 ああ、姐さん、そないに豪快にドア開けたら気付かれてまいますがなー!!
「ロマノフ! 貴方ちょっと、何考えてらっしゃるの? 人間界で生活する気がほんとうにありますの、遊びで来ているわけじゃありませんのよっ!! ‥キャァ! 何ですの、本当のことじゃありませんの!」
 ご主人、急に立ち上がりましたで! ま、また暴走ですかいな〜〜!?
「キャアアア、こっちに来ないでーーー!!」
「クリスクリス! よく見て下さいな、ロマノフさん とってもいっぱい謝ってらしゃいますよ。ほらほら、背後にあんなに謝罪文が‥」
「わ、わかってますわよ! でも、表情と一致してませんわよ!! 私、今ひとつ信じられませんわ! キャー、何ですの! やる気ですのーー!」
「あ‥ また赤くなりましたよクリス?」
「あら、文字も消えましたわね」
 冷静にツッこまはりますなぁ‥ このお2人。
「す‥ まな‥ い」
 おお‥ 久々に口開きましたな、ご主人! こないに流暢に喋らはるなんて‥ ああ、ほんまに良ぉおした‥。
「気になさらないで下さいねぇ、ロマノフさん‥。おわかりいただければ、ねぇ‥ クリス!」
「よくありませんわよ! あんな勢いで坊ちゃんにぶつかられでもしたら、どうするんですの!」
「そうでした! ロマノフさん、坊ちゃんのお部屋にだけは突っ込まないように気を付けて下さいね」
「そーゆー問題じゃ、ありませんのよ!」
「まーまーまーまークリス〜」
「何ですのよ? これから本題ですのよ! ちょっとレオン、何ですのよレオン〜!! 触らないで下さいましーー!」
 なんやレオンはんが、クリスはんを部屋の外に連れ出しましたで‥。意外な光景ですわ‥。
「クリス〜〜‥。ロマノフさん、なんだか本当に落ち込んでらっしゃるようですし〜 あれ? クリス?」
 クリスはん、何、壁に突っ伏してますのや?
「あーーー。恐ろしかったですわ‥」
 ドキドキ心臓を押さえはって‥ 大丈夫かいな姐さん。 自分こそ、言葉と態度が別でんがな‥。
「うるさいですわよ! 恐いものは恐いんですの! あの眼光どうにかなりませんの?」
 出来るんなら、とっくになんとかしとりますがな。
「それより、ご主人の懸念は、あの窓の外にあるようですなぁ‥」
「きっとロマノフさんも、坊ちゃんを置いてきてしまったことが気掛かりなんですよ‥。わかりますよぅ、ロマノフさん! そうとわかれば、私、お隣から坊ちゃんお連れしてまいります! ああでも、お隣にはなんとお詫びすればよろいしいんでしょうねぇ‥。 じゃー、いってきまーーーすぅ!」
 なんや、ご機嫌で行ってもうたで、兄さん。
「謝るのだけは得意みたいだから、放っておいていいわよ」
「ほんまにご主人、その坊ちゃんの心配してはるんやろか?」
「それはないですわよ。それなら、とっくにお隣に乱入してますわ」
「それもそうでっけど、じゃあ何で窓にはりついておいででしたんやろ? ただなんとのう眺めとるゆぅ雰囲気ちゃいましたよなぁ?」
「気になりますわね‥」
 姐さん、なんや楽しそうですなぁ。
「ほっほっほ。当然ですわ! ロマノフの弱みを握るチャンスですもの!」
 姐さ〜ん‥。
「そうですわ! ロマノフって何か苦手なものはないんですの?」
「特には‥ 好き嫌いもおへんしなぁ。強いていうなら、人前でしゃべることくらいですかねぇ‥」
「話しになりませんわね。それじゃあ、坊ちゃまの寝室整えますわよ。手伝って下さいな‥」
「は? ご主人は?」
「もう、よろしいですわ。下手に刺激して、また壁に穴でも空けられては困りますもの。焦らず、じりじり追いつめるんですわ! 殿方をものにする時と一緒ですわ!」
 はぁ〜 そういうもんでっか?
 わて、わて、エライお人 見込んでもーたんやないやろか〜〜! 
 許しとくんなはれ、ご主人ーー!!




    NEXT              EXIT